どこまでも昇る水
木立 悟
影の尾が地に触れ
うたっている
忘れかけていた蒼が
目を馳せる
特別に
彩られているはずだった
その衣は
どの空を刻んでいるのか
手のひらは白く
ひとつつぶやき
鴉が数羽
空の水を視る
夜 光の槍が降り
ひとりの家を囲み
朝 何かが失くなったことに
誰も 誰も気付くことはない
瞳はまだ 遠く置かれる
赤い傘が降り
燃え上がり 燃え上がり
雪は融け 低い低い音になる
午後の流れが
すぐ終わる青空を運び来る
月は坂の途中
じりじりと歩む
願うな 願うな
言葉にしていいのは願い以外のみ
願いは呪い
数え切れぬ自分自身が傷つくのみ
肉の内を駆ける多足のものども
曇に紙を押しつけてはなぞり
芯先を浮かせては突き浮かせては突き
穴だらけの紙に空を描く
散りぢりの白い髪が降り
雪の上だけに積もりゆく
誰かが斬った雲間から
巨大な青がのぞき見る
足を射抜く矢
痛みは無く
そのままをそのままを歩きゆく
地まで貫くを引き剝がしながら
口から炎をこぼしつづけ
なお融けぬ雪を踏みしめている
都市の発芽と落葉
無人と足跡のはざまの白
空がふたつ 縦に降り
地に着くまでに
幾重にも重なる音と光
光の波に消える光
風が球を描き
風が網を描き
風が羽を描き
空を泳ぎつづけている
踵を尖らせ
廃墟を駆け
おまえとは違うおまえと手を結び
空を穿ち 駆け昇る