おそらく業務用として卸されるホテルのシャンプー
万願寺

小学校のプール(ぶ厚いこけ緑の濡れたものがびっしりと)
大学一年の時の合宿(飛鳥のとぼけた顔)
中学校の理科の時間(ふくらんだ新芽がひらいて気持ち悪いくらい匂い立つ)
わたしたちって今までのことしか書けない、知っていることしか知らない、今より後のことを書けない
大浴場のシャンプーってすこしく海藻のようだ(海に潜ったこともないけど)
それで今までを飛び石のようにつたっていくわたしの頭、記憶の舟
父親をヘイトタンクにしている、実際には母親に当たる
三十五才の子ども、悲しい
それだけでないと思いたい、それだけではない、でも
疲れてへばってはいつくばって
しまうといつもそうなる、すべての集中線は父親へ向かう、あるいはすべての消失点は
そこへ
憎しみの指向性、散らばってしまったそれを黒点に集めて、また散らそうとは思わない 他のものを憎みたくないから
だからずっと何をどうしても憎むために憎む
その先で逃げてきた大浴場でたくさんの「わたし」を造った記憶を嗅ぐ
自由だ
いま、憎しみから自由、理科の時間に北校舎の裏庭の乾いた花壇に植わるクロッカスの葉を見ながら、すいこんだつらい五月の空気、新緑新芽
あのときも父親はいたが、あのときは憎んでいなかった
しかしそんな事とはもはや関係がなく私の今はヘイトタンクから飛び散った黒インクにまみれ
だけれど自由 思い出を思い出し 私は自由
ここには父親もいないし、ただ水上の温泉に連れていってもらったあの時の大浴場のにおいさえ
思い出せそう


自由詩 おそらく業務用として卸されるホテルのシャンプー Copyright 万願寺 2023-02-07 11:19:40
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