暗闇のなかの戦い(五)
朧月夜

「他愛もない戦いでしたね」と、ヨランは言った。
「いや、そうでもない。ガージェスのあの奇策、
 お前がいなければ、わたしは勝てなかったかもしれない」
「千人隊長のあなたがですか?」ヨランは驚く。

「そうだ。イリアスは、今お前の手の中にいるのだな?」
「はい。今は気絶しておいでです。大方、苛烈な尋問が……」
「もういい。イリアスの顔を見せよ。我が妻となる存在だ」
「承知いたしました。今から、騎士様のところへ向かいます」

しかし、問題は終わってはいなかったのである。アイソニアの騎士は、
「なんだ、この女は? これはイリアスではない!」と叫んだ。
その顔は、イリアスの侍女のものだった。彼女は、イリアスの影武者を務めていた。

(俺たちは騙されたのだ、何重もの意味で)アイソニアの騎士が、拳を握りしめる。
「では、本当のイリアス様は……?」ヨランが、焦って問いかける。
「今ごろ、クールラントにいるだろう。俺の勘が正しければ」


自由詩 暗闇のなかの戦い(五) Copyright 朧月夜 2022-12-14 17:58:27
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クールラントの詩