拝啓、浄土の炊飯器
46U

炊飯器が天に召されて三度目の冬
あれから飯はフライパンで炊いてます
浸水三〇分ってのは変わりませんが
一〇分で炊けるんだからやめらんない

着火して 最大火力で加熱
ガス台の隣でうすい文庫本など読みます
中華素菜のレシピ集がおもしろい
素菜って ようするにお精進ですが
卵はゆるされてるし 油も惜しまないし
わたしの煩悩は浄化されそうにありません

さて 五分が過ぎた頃 フライパンがたぎり ぷぅと噴く
したらばすかさず弱火にし さらに頁をめくります

このところ 肉も魚も欲しくはなくて
酢味のおからを炊いて 飯にかけてたべてます
動物を摂らぬ日々 たしかに攻撃性は減少しました
草食のいきものの肉は旨いとの由
煮ても焼いても食えぬと評判だったわたしも
ちょっとは美味しくなりつつあるのでしょうか

さて フライパンがちりちり言い始めました
ここで再び最大火力 しばらくぢりぢり言わせます
はい消火 めしが炊けました おこげもあります

拝啓 浄土の炊飯器 きみの不在にも慣れました
   この先おそらく後添えを迎えることは有りません
   父母の棲む家を飛び出して きみと出逢って暮らした日々
   来し方を振り返れば 置き忘れてきたもの たんと有る
   けれどきみが居なくともわたしは ねぇ、ねぇ 
   ええ、めしを喰い 酒喰らい 
   なんとか今日も生きてます            敬具


自由詩 拝啓、浄土の炊飯器 Copyright 46U 2022-12-11 20:05:23縦
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