ありふれた日常と見たことのない世界
千月 話子

使い古された洗濯機から
排水ホースが引き抜かれた
水曜日の朝

子鬼だろうか
幽霊だろうか
革命 だろうか?

色落ちした青いシャツ
引き裂かれたピンクのハンカチ
絡まった男女の下着など
取り散らかっておりました。




薄汚れた水浸しの白い花薫る洗濯室で
行き場を失くした激流が
右往左往 している。

すぐ目の前の
果てしなく遠い 遠い世界を
呆然と見つめる 家人

一体ここは、どこなのだろうか・・・
記憶に無い 世界 世界 風景




目を閉じて、溜まった花の蜜を掬おう
美しい匂いだけを辿りながら

敷き詰められたタオルの
無造作に置かれた花の絵が
ジクジク と水を吸って
生き生きしていることなんて
考えもせずに  さぁ。




根も葉もない6階の天井から雨が降る  天変地異
恨みつらみ無い5階の天井に神の姿浮かぶ 奇跡




重力が下方に水を呼ぶ
下水になど 横取りされてたまるかと




7という数字の幸運が
4階の天井で昇華されたかなんて
誰にも証明できないとしても
止んでしまった無法な雨は
ただ 水滴となって
鉄骨の道を落ちる

一晩中反響する音は
金管楽器を奏で
鉄筋コンクリートの洞窟で
鍾乳洞と化して 行くのか


 ぴとん ぴとん  
 つ・・・ と止まる
 ぴたん ぴたん ぴたん
 つ・・・ と止まる


今夜の寝床は少し 冷たい。




浅い眠りが
快晴の空の下で
乾燥した風と共に
白いシャツを揺らす
そんな夢を 見ている

深い眠りが
白い壁で覆われた建物の中
長い 長い 虹が
空と地を縦に渡る
そんな夢を 見ていた

ああ、、、
高層住宅が
夜の闇の中で七色に輝いている
7階の住人の手のひらを通して

鼻先を スズランの香りが
通り過ぎても
誰も気付かないなんて




今日の疲れが浄化されて
また明日の洗濯槽で 
渦を巻く朝まで
住人よ
深深と眠りに浸ろうか・・・。







自由詩 ありふれた日常と見たことのない世界 Copyright 千月 話子 2005-05-07 17:25:05
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