ふくよかな幽玄
あらい

三階の窓辺で釘付けにする
ひとつ
こころゆくまで
北側に向けた隔たりが囲っている

近隣都市の感覚より目と鼻の先の憧憬を
通りがかったほとりが覗いただけ
これが散歩がてらにちかく
並びより
家庭的開放感を落としている

いままさに命は洗われている

ネジを緩めたオルゴール
潮騒を喚ぶ唇は薄く開かれ
瞳から溢れた光が彼女と物語っていった

「おはよう」
  トランク上の、
  黒猫は欠伸をして 
  伸びをして
(残響が余白を孕む)
  明日の外側にある誕生日は
  峠
  中ばにあって
――葬場にて。
  あおいろをたくし上げた跡に
  しゃれこうべがごろごろしている

貼り付けられた鉄塔、冷笑を游がす目印
せめぎ合う暗黙と劣等感。哀切と解熱

いくつかの山と谷を越える
やはり花は咲き乱れている

それでもそれでもこの夢は
リアルな感情を描写しながら
走り続けている 
霧深い白夜を
ランプを灯して
シワの目立つ制服を着た姿と
目を凝らす

砂袋から溢れていた
幸福のようなものを
まばたき一つせずに 撓み・丸み


自由詩 ふくよかな幽玄 Copyright あらい 2022-11-21 22:57:38縦
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