ベルリンショートバージョン
モマリサ公

そして扉の向こう側になにかがあふれている
閉じていた扉をあけるとそこには透明な顔ばかりがあっちやこっちを向いている
みんなばらばらにどこかにいこうとして
ただ浮かんでいるだけ
あたしもおなじように顔だけになってただよっていてもいいんだよ

笑い声が聞こえてまた扉をあけると
うまれたばかりの声がうようよと床のうえをおおいつくしている
鏡にうつるのは声ばかりで実態がない
実態なんかなくてもいいんだよ

窓からは何本もの虹がのぼりはじめている
いくつあるんだろう
太陽はかすみがかっている
太陽を数えながら声になってもいいんだよ

あたしたちが加速して行きながらいつのまにか泣いている
粒になって落ちながら
あたしたちはまた乾いて揮発して空に戻ってしまう

何枚も写真を撮られていくセカイ
いつか燃えてしまう記憶たちが染み込んで
匂いのしない過去なんてなかった
動画になって切り取られていく記録にも
もう名前なんかつけなくてもいいんだよ

眠っている細い月をいくつもゆらしながらにじんでいく
深い底のない影が一枚になってつながっていく
どこまでも果てしがないことに絶望しなくてもいいんだよ


重要なことなんかどこにもなかった
知らないことも知っていることも
それが最初でも最後でも

すいこまれていく
なにもかもが次の扉のむこうがわに
むこうがわにももうなにもかもあふれているのに
すいこまれていく
それは全部今という感覚の現在っていうだけで
意味とかなんてもうあふれてもあふれてなくてもぜんぜん関係ないんだよ

あたしたちが加速して行きながらいつのまにか泣いている
粒になって落ちながら
あたしたちはまた乾いて揮発して空に戻ってしまう




自由詩 ベルリンショートバージョン Copyright モマリサ公 2022-11-16 07:39:20
notebook Home