脱出(十一)
おぼろん

その時にエインスベルが見せた表情。それは、いつにない柔和なものだった。
ヨランは、エインスベルの心理について思いを寄せる。
(未だ、この人はアイソニアの騎士を愛しているのだな)と。
しかし、それはここで口に端に昇らせるべき言葉ではなかった。

運命・宿命は、人々の人生を切り裂いていく。
(エインスベル様は、アイソニアの騎士様にグロリオサの花を手渡した時に、
 その思いは振り切ったはずだ。今は、この国の一臣民としてある。
 クールラントを平和に導く存在として……)これは、ヨランの覚悟である。

「アイソニアの騎士よ、そなたはイリアスを救出に行ってほしい。
 わたしとリグナロスとは、戦士エイソスの元へと行く。
 心配ない。謀略は始まったばかりだ。今からなら、十分に防ぐことができる」

「しかし、エインスベル。お前は大丈夫なのか? この監獄にも、
 もう長い時間いたのであろう? 今すぐ万全の調子とは行くまい」
「大丈夫だ。拷問に対する耐性は出来ている。振り返るな、騎士よ」


自由詩 脱出(十一) Copyright おぼろん 2022-11-08 17:39:48
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クールラントの詩