脱出(十)
おぼろん

「俺には礼を言ってくれないのか? エインスベル」
アイソニアの騎士が、咳払いとともに、憮然とした表情で言った。
「あなたは、敵を倒すのが仕事。今現在の行いも、
 あなたの通常業務を外れるものではありますまい」と、エインスベル。

「それに、今回あなたはヨランと契約をしたのでは?
 もしそうなら、ヨランがすでにわたしの礼を受けている」
「エインスベル様……。何もそこまで。アイソニアの騎士様は、
 この冒険の間中、わたしの対等なパートナーだったのですよ?」

「この世は契約で動く。アースランテの千人隊長ともなった男が、
 私情で行動するなど、本来はあり得べきではないことであろう?」
「そうかもしれませんが、やはりここは騎士様にもお礼を……」

「分かった。ありがとう、アイソニアの騎士よ。そなたのおかげで、
 わたしはこの監獄を脱出することもできる。そして、リグナロスも」
「ちぇっ、俺は結局次いでか」アイソニアの騎士は、ぽりぽりと頭を掻いた。


自由詩 脱出(十) Copyright おぼろん 2022-11-08 17:39:16
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クールラントの詩