手紙
虹村 凌


どれだけ言葉を吐こうとも
どれだけ嘘を吐こうとも
結局僕らは






元気にしていますか?僕は元気でやっています。
この前、あなたの劇団の公演があったと聞きました。
上手くいきましたか?お客さんは集まりましたか?
相変わらず、台本は締め切りに間に合わないんでしょうか?


そちらは、随分と暑いようですね。こちらは、暑かったり寒かったり。
丁度、あなたと居た頃のようです。雨も、降っています。
僕がいるこの国を、あなたは知っているけれど、
僕がいるこの街を、あなたは何も知らない。
あなたがいるその国を、僕は知っているけれど、
あなたがいるその街を、僕は何も知らない。


僕はあなたの大切な人を裏切って、あなたを愛しました。
あなたの大切な人は、僕の裏切りを受けて、僕達を切り捨てました。
あなたを愛した事は、間違っていたのでしょうか?
あなたと会った事は、間違っていたのでしょうか?

もしも、あなたと出会っていなければ、僕はきっと、今ここにいませんでした。
いま、こうやって筆を取る事も無いでしょう。
あなたの好きだった、あの煙草を吸う事も無いでしょう。
あなたと出会っていなければ、僕は、きっと、死んでいたのだから。

今、あなたを愛しているかと言えば、そんな事は全くなくて、
ただ、ただ一言だけ伝えたかったので、こうして手紙を書いています。
長くなってしまいました。
最後に、これだけ伝えて、筆を置こうと思います。



ありがとう。感謝しています。
あなたと出会わなければ良かった、と思った事は一度もありません。
ありがとう。







昭和弥拾年皐月六日
リョウ


自由詩 手紙 Copyright 虹村 凌 2005-05-07 00:23:05
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