水の地をすぎて
木立 悟







岩の集落に刺さる虹
色を失い降りる鳥
横倒しの如雨露から流れる曇
ゆうるりとゆうるりと線路を覆う


家の何処かで
茎が動いている
片方だけ 葉が幾重にも重なり
倒れながら羽ばたいている


午後の曇に生まれる
大きな人差し指が
降りて降りて降りつづけ
降りて降りて消えてゆく


響きでもなく
連なりでもない
何かを限ることのないものが
常に常に 降りそそいでいる


冷たさと風は音になり
空の鱗を震わせている
折り畳むまばたき
景めくるまばたき


人の目に触れたとたんに
花はおのれの名前を変え
やわらかくやわらかく空に逃れる
たくさんのものを置き去りにして


ただひたすら横に跳ぶ光が
額と頬の間をすぎてゆく
それは何処へも着くことがない
何処かで曲がり 繰返している


氷の音 横顔の口笛
吐息の色が光にほどけ
受けとめる指のかたちを編んでゆく
射るほどに 斬るほどに編んでゆく


湖を囲む湖
一本の径 少しの霧
淡い淡い緑の上に
すぐに消えてしまうものが降りつもる


受け止められる分だけ受け止めて
降らない土地に置いては進む
残ることのないまぶしいもの
何処かに何処かに灯りつづける

























自由詩 水の地をすぎて Copyright 木立 悟 2022-09-15 21:22:18縦
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