曇間と門前
木立 悟





午後を歩き
空を吸う
斜めの鉛芯
やっとひとつの島を巡る


空から落ちる花の軌跡
声はずっと声のまま
水たまりの上を旋回し
宙に桃色の輪を描く


雨の明るさ
影の蒼さ
最初の一滴を受ける勇気
自身のかたちに切り抜かれる午後


径の端に
宵のかけらがころがり
傾斜をのぼり
曇間へと歩む


夜とさらに濃い夜が
空を二つに分けたまま
街の向こうへと沈みゆく
わずかな わずかな掛け声の遅れ


虹を雷雲を越えるうた
人影は雪を過ぎ何処へゆく
枯野に浮かぶ流木の舟
誰もおまえを止めはしない


まばたきとまばたきと涙の飛沫
寒く哀しい日々の足音
曇が屋根に指を突き刺し
ひとつまたひとつ鳥の巣を作る


笛も翼も火も終わり
糸は午後にからみつき
曲がり角で泣く子ども
水の警告に満ちる径


門が閉じるより早く
鍵盤の音が聞こえくる
火口湖畔には選ばれた人々
ただ霧の先へと歩みを進める


茎の刃が葉を落とし
光は光に背を向ける
緑は応えを急がない
水たまりの上を昇る午後


門前の楽しげな子らの声
次の試練を告げている
空はひらき 空は閉じ
花とうたは降りつづく


















自由詩 曇間と門前 Copyright 木立 悟 2022-07-19 15:27:12
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