夏の始まり
ちぇりこ。

未舗装の砂利道の上、うろ覚えの英語でルー・リードのWalk on the wild sideを口ずさもうとするんだけれど、あらぬ方向へ跳ね回ってどうにも様にならない

緩んだままのスニーカーの靴紐がほどけてしまったのに気付かないで自分の足で踏んづけて転びそうになる

まだイけるやろ、薄ペらくなった歯磨き粉のチューブをお尻の方から強く指でスライドさせて、飛び出した最後の歯磨き粉を洗面台に落としてしまう、何食わぬ顔で洗面台の上にポテんと落ちている歯磨き粉を歯ブラシで掬う

初めて訪れたコンビニがセミセルフレジなのを気付かずに、笑顔でバイトのお兄さんに小銭を差し出そうとする
「お客様、お会計はコチラでどうぞ(ニッコリ)」

傘を忘れた日に限って雨が止みそうも無い、何時までも軒先で躊躇しているような足下を猫が、カエルが、カタツムリが、あ、どうぞお先に(あの人らは傘が無くても平気なんだ)

雨はいつか止むのだろう、雨上がりのお日様が顔を覗かせるその一瞬、鞄の中の折り畳み傘の存在に気付いてしまう

まあ、良いか、で済ませているぼくの隣でニイニイゼミの羽化が始まり、夏が胴体着陸をキメている

そんな夏の始まり


自由詩 夏の始まり Copyright ちぇりこ。 2022-07-06 20:21:23
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