七夕
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ささやく 残照の海
なれた 忘却の罪
水は 空と結ばれ
夏の 夜をことほぐ

うたうべき歌を秘め
ひとり影だけを踏み
あの人を想う

気化した銀が まるく冷え
やがてひろがる 天の川


たれが牛を牽いたか
あおいすすきを踏み分け
たれが機を織ったか
のびる布目を遥かに凝らし
うつすからだを心で愛したか

乾いた紙がおどるほのおの中で
おとなになりそこねた子が
はだかで石を積んでいる


神のわたり羽根をひきぬき
肩にぬいつけ
しずかにひろがる
浄闇をおして
いつかは越えたいと願った


西のうみに 海員ひとり
一羽の鷗と くらしてた
あさは蟹を とりきそい
よるは星を あらいあい

高さと速さを きそう雲
色も長さも 荒くくし梳る


枯れたワジに横たえた身を十字に重ねて
さみしい点火音になぞられる間
世界の輪郭があらわれる
想いも同じように灼かれるだろうか
まるで何事もなかったかのように
きのう、のことばの貌で
今この時がながすなみだ


あらたなちぎれ雲が東の空へと泡だつ
まぜられたくないってちいさく叫びながら
世界を水びたしにすることでしか
うまれなおせない
そんな偶然を笑うだろうか

星につつまれて 朽ちる夢
いつかわたしも 星になる

あまい口ぶりの朝露のふくらみ
夜をひとつまみ摺ると
たるむながれ
ほそい沈下橋があらわれても
雨は降らなかった

花につつまれて 朽ちる夢
いつかわたしも 花になる



自由詩 七夕 Copyright soft_machine 2022-07-05 21:43:08
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