おんがく
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わたしの父は
永久を積み重ねた石柱
わたしの母は
古典をゆるがす門
あらゆる角度で加速する渦

居なかった弟
それは脳で発光した電流
欲しかった姉
それを受けとめる海
ひろがる雲と遠雷の余韻をつつしむ

奏者の手脚と釦を操作する助手がいて
オルガンは黒管に光跡を描き
ふしぎな馬蹄も轟く
持続する模様で閉ざされた部屋
一定の変化をどうしても縮められない
歳月が開いた壁の羽目板に
隣の諍いが今日もさかんで
スプリングの感触や
カンバスの落書きに
煙を吹きつける気楽さは
乾きの遅い油のためだと
グラスの縁を震わせる夢は輝く
ひと粒のなみだも赦さない旋律で

するとわたしはやはり音だろうかと思う
ことばより確かな不可視の辺縁へ
向かう唄声だろうかと
思う耳の群が
幾度となく小舟に揺すられ
アケロンの岸辺に踊っているのだ
これより響きはずっと

風の息子に伝える
引き絞る弓をつよく張り
空の娘へと
撃ちだされるひとすじの矢
いつか宇宙の壁に突き刺さるまで



自由詩 おんがく Copyright soft_machine 2022-05-22 14:23:05縦
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