沈黙の神殿
塔野夏子

濡れた火
燃える水

僕らはあまりにも
性急に夢を見すぎた
僕らとは誰なのか
僕らは今どこにいるのか
たしかめようともしないまま

だからそこに出来たのは
はじめから廃墟だった
過去であり未来であり
けれど決して
今になることはない廃墟

僕らはそこで
もう身動きもとれない
濡れた火
燃える水
に取り囲まれて

だけれど僕らは
それに気づかずに
あるいは気づかないふりをして
また新たに
性急に夢を見てしまう

だから
夢のために失われたものたちのために
祈るにふさわしい言葉が 身ぶりが
僕らの身体から
どんどん剥がれ落ちていってしまう

濡れた火
燃える水

僕らとは誰なのか
僕らは今どこにいるのか
見えない場所に
問いは音もなくうずたかく積み上がりつづける





自由詩 沈黙の神殿 Copyright 塔野夏子 2022-05-01 11:33:00
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