僕は僕の歌を歌う下手くそでも
秋葉竹



下手くそな歌を
歌う喜びがあった
手に入らない美しいため息を
言葉に変える人に憧れた

悲しいけど窓を叩く風の音が怖くて
震えながらもう歌はうたいませんと
そう誓わされてしまった
深海をゆらゆら鮟鱇が泳ぐ息づかいで

でも

りりり ららら ろら?
るるる りりり ろろ?
ららら るるる らろ?

だろ?

でも

止まらない眼をして
歌うけものが足の小指の先に避難してでも
歌う意志を無くさずに保ちつづける

それを歌う喜びと僕はそう誓う

さざなみに突き刺さる小雨の優しさが
心臓を乱れ撃つ在りし日のリリシズムが
その海がかなた南極まで続いていく真実が
簡単に人間絶望論を包み隠してくれるから

水平線を見納めて
銀河に願いを込めたたそがれどき

神なき夜に人ひとり生きる権利への
絶望と希望のすり替えを果たすには
まだ自由に使える時間は残されている


それでも下手くそな歌を
歌う喜びはのこっていた
手に入らないものはもう要らないと
言葉にして客観的な想像さえ棄て去った

悲しいけど人ひとり生きるには
怯えながらでも歌を歌うしかないんですッ!
そう大きな声で叫んでやった声が破れても
もはや人に嫌がられることや憎まれることを
心に刻み灼きつける時間だけは
僕からは無くなってしまっていたのだから













自由詩 僕は僕の歌を歌う下手くそでも Copyright 秋葉竹 2022-04-16 11:49:28
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