歌わなければ良かったのに
秋葉竹



声が、
汚くて、
歌うことを諦めたのに、
こどものころに。

今になって、
歌、歌いたく、なってしまうなんて。


水面に、
やすっぽい宝石が浮いている、
ので、
やすっぽい心を委ねてしまいたくなった
バカ、ひとり。

胸の小さかったころの私
夜だけが優しくて
朝の光はいつだって
心を刺し、心を正しくしようとする意志で
グリーンのカーテンをすり抜けた、

ひれ伏し、
謝らなければ、
ならないのか
足を止めて歩いて来た道をふりかえる。
優しさや、
暖かさなんか、
笑い飛ばす罪を胸に封じ込めて、いても。

ただそれだけを、
伝えたくて
嘘つきは、卑怯な臆病ものだという
モノクロの世界の壁の前にたたずみ、
そんなことも、
知らずに、
歌を歌ってしまった
それが一番知らずにいればよかった
道を踏み外した本当の失敗だと
知ってしまったあとでも、
私の正しさを信じることができた、
なけなしの、奇跡。

夜、大声で泣き叫んでしまった、
ずいぶんむかしの、こどものころのように。
なにものも、得られなかった、
だれからも、愛されなかった、
全てを終わらせる、
嵐の夜は。

泣いて、なにもかもを、
終わらせようと、
していた。















自由詩 歌わなければ良かったのに Copyright 秋葉竹 2022-04-08 23:24:42
notebook Home 戻る  過去 未来