歩行の滑稽
草野春心



  商店街の切れこみを
  うごく
  標識を呑みこみ、
  標識に呑みこまれていく
  警告する権威が さっきまで
  目の端に有ったことも
  呑みこみ、呑みこまれて
  ジーパンのつめものを
  うごく
  肉が歩行に酔う
  歩行とは肉の酔いである
  と言うこともまた
  呑みこみ呑みこまれ
  肉と権威が
  同じことについてべつの問い方をしあう
  そうした場で歩くのは肉である
  ショーウィンドウのかげを
  うごく
  ひかり、見えるものを遺棄していく
  と言うこともまたひかり、見えてくる
  そしてこまかな傷のように宿る
  まわる
  滑稽さが震える
  「よい」風をかんじて
  春のきたのをわかって
  ビールを飲みたくなるのは喉である
  うごくうごくうごくうごく
  笑いがそらに塗られ
  延ばされる
  還相する




自由詩 歩行の滑稽 Copyright 草野春心 2022-03-02 22:51:31
notebook Home 戻る  過去 未来