颱風
草野春心
くろい函に
颱風がつまっている
ガラス製の 記憶より小さな、
そのよるがふるえるのをわかると
これは宝ものなのかもしれないとおもう
血液の、くろい川の
颱風で巻きあがる しぶきを浴びて
だれもかれも 記憶より小さくなっていく
建物に はいっている
くちびるたちは 応えようとせず
まいにちのかたちに似せられていくだけだ
それは ほんとうは なんなのか
わからないなりに いおうともせず
掻き傷のうかんでくるガラス製の
夜の 壁に 颱風が あたまをうちつけ
からだをうちつけて、咽びなき
それをくりかえしているふるえている
喋ろうともせず