颱風
草野春心



  くろい函に
  颱風がつまっている
  ガラス製の 記憶より小さな、
  そのよるがふるえるのをわかると
  これは宝ものなのかもしれないとおもう
  血液の、くろい川の
  颱風で巻きあがる しぶきを浴びて
  だれもかれも 記憶より小さくなっていく
  建物に はいっている 
  くちびるたちは 応えようとせず
  まいにちのかたちに似せられていくだけだ
  それは ほんとうは なんなのか
  わからないなりに いおうともせず
  掻き傷のうかんでくるガラス製の
  夜の 壁に 颱風が あたまをうちつけ
  からだをうちつけて、咽びなき
  それをくりかえしているふるえている
  喋ろうともせず




自由詩 颱風 Copyright 草野春心 2022-02-15 19:06:00
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