まずは釘で傷をつけてから
ただのみきや

ヨナクニサン

大地の振り上げた鞭が三日月に絡んだ朝
重さを失くした新雪をふるい分けて這い出した
ヨナクニサンの群れ
マイナス8℃の空気をふるわせて厚い翅はゆらめく
縄文の焔 畏怖と言う美しい授かりもの 匂い
そこかしこ蒼い陰をくぐり抜け侵食するものたちよ
縫い付けよう戯れの激しくもあえかな糸で
死者の便りのように耳朶を食むことば殺して





遊びのために

とぎれとぎれ
思い起こす事は出来る
堆積した事実というぼた山のふもとで
人は育つものだ
世界に内包されている
天然の美を見つけ出すこと
それを模倣することでは飽き足らず
そのマッスを切り出して
さらに純化して抽出しようとする
此岸彼岸を行き来して
創作という神の真似事に
うつつを抜かしている

ぼた山を掠めて射し込む
落日の餘光よこうに生の苦楽を讃えつつ
紡がれては編み上がる
暖色情緒の柄模様から
こぼれ落ちての神隠し
人が夢の中で見て忘れている土地を
目覚めたままで徘徊して
金が欲しいと言いながら
金にならないものにしか
のめり込んだことはなく
遊びのために生まれて来たと
思えばあきらめもまた楽しい





ことばのためのことばたち

指先は瞑る
ふれる場所から汚してしまう
分裂の祈りにも似た片言の墓場で剥製となって

春の蕾の中 羽衣は嫋々じょうじょう
一点の深く濃い喪失を追いかける
杖をついた男の死と腐敗と白骨化

ことばの上にそっと乗せられた
気持ちの震え
花に止まった蝶を掌で包むように

水面の月のようにじっとしない
女が揺れているのか映すわたしか揺れるのか
酒瓶よりも青く揮発したこころ



                   《2022年1月9日》









自由詩 まずは釘で傷をつけてから Copyright ただのみきや 2022-01-09 13:37:22
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