ネフスキー通りで
Giovanni

人の人の波が群れが
皆ぞれぞれの方角を向き
時々それが出逢い擦れ合い
火花を目映く飛ばしても
漁火の夢のようにすぐ消えてしまう

僕は一人だ
この人群れの中にいて
砂漠の深淵のような
うつろな内奥をもつ鈍器を
目だけはっきり見開いて
言葉もせずに抱えている

だからこそ僕は一人だ
一人であるために一人でいる
望まないために望まないでいる
止まらないために止まらないでいる
笑わないために笑わないでいる
アルカイックスマイルも
ジャパニーズスマイルも皆捨て去って

今僕はアニチコフ橋の
上に立ち
荒馬を押さえる男の像を眺めている
午後8時 空はどこまでも深く青々としている
下を流れるフォンタンカ川は
瑠璃のように空を映し
その間に間に
モザイクの様に行き交う人々

もし空が本当に川に落ちたら
そして空が水に溶けてしまったら
一体何色になるんだろう?
千年経って観れば
思ってもみない色になるんだろうか?
そんなことを考えていた

気が付くと空に雲
地に雨
眠っていたかに見えた
ロシアの怒りの欠片が
僕を打った
どこまでも冷たく
どこまでも心地よく

ロシアの悲しみは
あえぎ行くものにとっての
一服の魔薬
凍てつくような気だるさに
埋もれてしまいたい

そうか
川の色は緑色だ
(2000.8)


自由詩 ネフスキー通りで Copyright Giovanni 2022-01-05 13:34:28
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