濁流
吉岡孝次

読者は地熱に埋もれている
毒蛇は先年の先年から透きとおっている
対比に肥えることなく
懐柔も望めない
自らをつきやぶった芽の、理学に
再び覆いかぶさるようにして
罅にしみこむようにして
徴の溶融をこととする知が 古を
擬える

  「さがさないでください」
  家出したがり屋さん
  この世界から

上梓され
封切りされるまで
もてあまされる閑暇
あたしは女で俺は男だ
偽典を漁り
溺れ方を修得する
あるいは出立に溺れる

透きとおった毒蛇を呼びこむ

お伽噺は覚えられるだけの短さ
だから愚説、では終わらない
長く 馴染みぶかくなった奇譚は

お行儀の良い列席者
旗の下に集う寄進者
読者は地熱に埋もれてはいない
毒蛇も

漉きあがる坑道の見取り図
系をなさない小紙片の蒐集
嚥下される悦びの獣脂
看過される綻びの転写
これは培養ではない
悪びれたところのない、幾重もの淫蕩


自由詩 濁流 Copyright 吉岡孝次 2005-04-29 07:04:51
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