海の呼び声
由木名緒美
海からの手招き
ちいさく
おいでおいでと飛沫をあげて
幾千の光があなたを呼ぶ
神の隠した浮島が
夕陽の産卵に砂を捩らせ
浜辺を涙で湿らせる頃
あなたの瞳にひそむ楷が
海底の椚に突き刺さる
波浪のごとく生命は海水の一粒の隙間に那由多の航路を編み上げて
翻っては沈む波飛沫に鳶は過去と現在を押し戻しては再生の流線に生まれ続け
飛魚は跳点に一粒の逡巡も残さず半丁の輪廻を泳ぎ切る
ここが桃源郷ならば私は白布
何処から来たのかも 何処へ行くのかも問われずに
地図さえない流浪の旅は命名を免れ宇宙の神秘をもすり抜ける
この島であなたと出逢い
大地の隆起が燃える夕陽に轟こうとも
私の運命を侵すことは出来ない
あなたの剣が海底を裂き
水煙が最期の砂粒を呑み込むその時は
あなたを包む産衣となろう
血潮で染められた私の体が
あなたという命を孕む初夜の晩に
私は運命をすり抜ける
永劫に回帰する海の輪廻の臍となって
あなたの婚儀を祝しよう