わだつみいろこの宮(青木繁の絵画より)
紀ノ川つかさ

なくしてしまった
兄の釣針を探しに
僕は海の底へと降りていった
そして針が刺さったかのように
姫と出逢い
糸で釣られるかのように
姫に惹き寄せられた
この海の底に
青々とした宮殿があって
姫はそこに棲んでいた
兄に命じられ
海に降りる前
僕は覚悟をしていた
海底の暗黒を
その息苦しさを
そしてたった一本の針を
探すことの虚しさを
それは逃げられない
兄のまなざしであり
そして僕の人生だ
しかし
木々に囲まれたこの場所に
もう息苦しさはなかった
忘れていいのだ
出逢ったのだから!
忘れていいのだ
僕は出逢ったのだから!
兄よ僕は
ここで姫と生きる

そして画家は想った
暗い深海に横たわる
青く木の繁る宮殿を
そのように描き生きる
自分を


自由詩 わだつみいろこの宮(青木繁の絵画より) Copyright 紀ノ川つかさ 2021-12-01 22:03:57
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