Ⅾソリューション
本田憲嵩

何度も凍り付きそうになる。気の利いたゴムボールのように弾む会話をするということは、きわめて難しい。それは、僕たちにとって、お題を課せられて即興の詩を書くのと同じくらい難しい事のように思われた。(これがもし女性との気の利いた会話ならば、僕個人の場合、軽快に響かせつつも意味をもきちんと通さなければならない、ことばあそびうた程の難易度にまでさらに跳ね上がる)。
沈黙がしろいゴムチューブのように間延びしている。それは、質量のない重い労働をぼくたちに課してきて、やがて耐え切れなくなり、なかば強引に発火する。そういえば、で始まる、支店長の世間話の口火。「ツルの村にツルはいるのか」それが、つかのま焚火のような安堵となる。わずかばかりの資材ではあったものの、話題の薪はさらにそこにくべられ、とりあえずは温度となる。温かさは微塵も感じられなかったが、僕たちは時間が燃焼されてゆくことに、わずかながらの悦びすら覚えていた。
ソーシャルディスタンスがすっかり定着しつつある昨今だが、果たして会話そのものまでディスタンスする必要があったのか。いずれにせよ昼休みを削った二十五程の食事会は、今回もどうにか無事に終了したのであった。



散文(批評随筆小説等) Ⅾソリューション Copyright 本田憲嵩 2021-12-01 02:23:32縦
notebook Home 戻る  過去 未来