stones
mizunomadoka


1

もう二度と会えないねって交わした約束と
12度目の冬を迎える

寒いなーって思ったら
あなたの町に雪が降ったのね

ブラックフライデーにクリスマスプレゼントを買って
夢の中でお風呂掃除をしてる

わりと幸せな日々だと思うけど


2

約束を破って会いに行く
今の服と化粧に昔の香水とアクセサリーを身に着けて

あなたは驚いて、一瞬目を細めてから、悲しい顔をする
「ごめんね、近くまできたから」

一人になったと聞いたのに
ドアの向こうから声がきこえる

「ちょっと待ってて、上着をとってくる」
「ううん外は寒いから出て来なくていいよ」

「元気そうでよかった」
「あなたもね。はいこれ地元の名産」


3

柱に刺さったダーク
彼女の去った雪の轍を窓から見下ろす

今もきれいだった
懐かしい匂いがした

追いかけて本当のことを話したら?
首を振って、菓子箱を仏壇に供える

赤、緑


4

海辺のモーテルにチェックインする
ガラスに映る私は魔女みたいだった

ご朝食は向かいのカフェです
お召し上がりの際にルームキーをご提示下さい

熱いシャワーを浴びたかったのに
荷物だけ置いて砂浜まで歩いてる

波の音、海、風、雪、月
寒くてきれいで叫びたくなる

何してるんだろう?
こんなところで
でも幸せ
丸く削れた石を拾う
「これが約束ね」
海に投げる
吹雪でなにも聞こえない
今度はもうすこし大きな石を投げる
パシャ
かすかに音
もういい帰ろう
このままここにいて
夜に溶けたい


5

誰もいない部屋

海外旅行で買ったお揃いのカップ
把手は接着剤でくっついてる

プラスチックの花を挿して
本棚の右隅で銀色夏生を支えてる


6

もう片割れは
ノルウェーの工房にある
どうしてそこにあるのか誰も知らない

形を変え旅をして
途方もない分岐の果てに
未来の終わりに辿り着いた
彼女が投げた丸い石 

「これが約束ね」

約束は海に触れる前に消えた








自由詩 stones Copyright mizunomadoka 2021-11-29 15:32:46
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