穂渡り
AB(なかほど)

穂渡りの君が
口笛を吹く

錦糸町にお蚕さんの面影を重ねてみる
ほら
そんなふうに季節を忘れた町に
探している何かを求めている
探している


穂渡りの君が
嘘をつく

季節は季節はと言いながら
何も変わらない規則正しい日常を
田町から迎える景色を
愛してる、愛しんでいる。慈しんでいる
でもなんでもいい
愛でている


穂渡りの君は
季節の上を寝床にして

神田のあちらとこちらで
どちらかというと僕はこちらが好きで
とか言いながら
ああ、
こんな立呑屋で酔えるのは
秋も終わりかなぁ、なんて


穂渡りの僕は
なんやかんやと言いながら

昔、裸族禁止と看板があったあたりの
フェンスの向こう
流れる呑川に捨てた気持ち
それをまた拾い集める年にもなって
ああ、あれもこれもだ
あれもこれも 君の、僕の、思い出だ



こぼれ落ちてくものを
掬いながら
穂渡りの季節が過ぎる



  








自由詩 穂渡り Copyright AB(なかほど) 2021-11-24 19:01:33縦
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