傷のこと
こしごえ

ひぐらしの かなかなかなかなかなかなかなかな……と歌う歌声が
空へ心地好くひびく
一人 林の陰に立ち 傷を思う

傷の増えた この銀製の指輪は
あの人が亡くなった頃に求めたものです
この銀の指輪の傷は
あの人の声ではなかろうか

ある時の私は、
誰かの心を傷つけてしまう時もある。
あなたの心に傷をつけたその時は ごめんなさい。しかし
あなたは「私はそんなに弱くない」と言うでしょうか。
誰かの心を私が傷つければ私自身も傷つく。
けれど
心の秘密の宝は自分以外の誰にも傷つけられません。
この心の秘密の宝は秘密だから
秘密の宝を見ることも、
秘密の宝に触ることも、
秘密の宝を傷つけることも、
秘密の宝を大切にすることも
自分以外にはできないのです。
けれど
今も心の傷は痛む時がある
こういう時は 心の痛みをなぜるように
「だいじょうぶ。私の全てをとは言えないが、
私は私を知っている。……
この心の痛みに私の心は試されているのだ」
というようなことを言いながら
傷のある銀の指輪の肌を指で少し触る
このような指輪はお守りです

心の傷の深さは いのちの深さとつながっていて
私の いのちを育てていく

ひぐらしの かなかなかなかなかなかなかなかな……と歌う歌声が
空へ心地好くひびく
一人 林の陰に立ち 傷を思う


自由詩 傷のこと Copyright こしごえ 2021-11-24 14:00:37
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