鬱血のアウトサイド
ホロウ・シカエルボク


轢死の残滓、まだ夏の在処の片隅に、凍る息を見つめながら、語れる言葉も無しに…そのまま、そのまま、塵のような雪に埋もれる、春になる頃に骨組みだけの姿でまた会えるさ、口笛は曰く付きのインストゥルメンタル、縦列駐車の中で、一人の運転手の心臓が止まる夕方、もう感想など無かった、ありふれた死、ありふれた終わり、流行歌のような予定調和のコード、プラスティックの仮面になって君を殺してあげよう、血飛沫こそが本当のエンタテイメントであるべきなんだ、いつだって衝動でありたい、本当は君だってそうじゃないのか、非常灯だけの薄暗い無人の劇場の舞台で、取り繕われた過去が精神病理学的な舞を披露している、客席の虚無たちがスタンディングオベーションを送る、終演が来ないことなどきっと問題ではないのだ、凍てつき、超音波のような振動を繰り返す窓ガラス、柔らかな布で覆われたペインのような光景、日常に割り振られた譜面の中で、四分音符の幾つかは貧血症に悩んでいる、フレデリック・ゾマーのプリントのように真実は語られる、もしもそれが音楽に成り得るのなら、マイナー・コードの置き方だけがポイントになるだろう、死体の指先が静かに指し示すものは、最後まで紡がれることの無かった詩篇に相応しいセンテンス、アルト・リコーダーの呪文のような音色、そしてタンギング、気狂いピエロはただの散文詩に過ぎないさ、訳知り顔な連中ほどそのことが分からない、短い眠りの中で見る夢は結論を求めない、ただいびつな現象を垂れ流すだけだろう、薔薇は赤い、そううたうことはシンプルではない、薔薇が赤いことなんてただの偶然に過ぎないのに、列車の中から見える景色を一つの言葉で語ることは出来ない、シンプルとは本当はそういう概念であるべきだ、無数の窓の中で夕日は分散される、そんなとき君は何を数えるのだろう、他に窓の前に立っている者は居ない、そんなときに存在であろうとすることは果たして無謀なことだろうか?どこから何を見ているかによるのさ、視点のない表現になんてきっとどんな意味も見つけることは出来ない、宝の地図を見れば宝が手に入るわけじゃない、絵本のような優しい芸術に慣れたやつら、機銃掃射で蹴散らせてやればきっとスッキリするだろうな、ホルマリン漬けにされたサンプルたちの視線、あいつらはきっと、その中で過ごした時間のことしか考えていないのだろう、その記憶は、死なのか、生なのか?埃と、流れることの無くなった時間の積もる廊下を、軋みを気にしながらずっと歩いていた、君の言ってることは正しいかもしれない、だけどその尺度が短過ぎることが気に入らない、だから俺にとってそれは真実ではないということなんだ、いつだって衝動でありたいって前に言ったろ、それは制限を設けないということなんだ、時によってそれは美学と呼ばれることもままあるけれどね、得てして真実なんてものは、あとで考えてみればという形でしか見つけられないものさ、君に異論があろうがなかろうが俺の知ったことじゃない、緩やかに時が流れる、その中で翻弄される連中などお構いなしだ、最期の詩を手に入れられたら笑って死ぬことが出来る、だけどそれは生きてるうちには叶えられない夢だろう、凍てついた窓ガラスが風に吹かれて泣声を上げている、部屋は直線的な寒気に満ちている、最初に見た夢の話がしたくて口を開けたのかもしれない、でも目的なんて往々にしてどうでもよくなるものだ、決まって意味を成さなくなるのさ、そこに気付けない連中から迷子になって諦めていくんだ、そんな連中の背中をいったいいくつ見送ったことか、だからヴァイオリン・ソナタを、凍てついた夜にヴァイオリン・ソナタを、臨終を見送る医師のようなヴォリュームで流してくれないかい、本当はきっと、誰もが脳髄まで届くものしか欲しくないはずなんだ、でないと人間である意味なんかどこにもなくなってしまう、いや、もしかしたらすでにそうなってしまった世界が、俺をこんなにいらだたせているのかもしれないね、眠る前にほんの僅か、センテンスは蘇生することが出来るだろうか、カオスを映し出す鏡は、一枚絵としての意味を持つだろうか、どれだけの人間がそれを受け止めるだろうか、すべての鏡はいつかは割れてしまう、そいつらが太陽の欠片以外何も写せなくなったときに、俺が彼らの墓前に添えてやれるのはどんなものだろうか、音楽はもう一度涙を流すだろうか、絵画はもう一度血のように燃え上がるだろうか、詩は鼓動のようにリズムを刻むだろうか、言ったよな、いつだって衝動でありたいって、どうしたって死ぬまでは生きているものだ、そしてそれは決して自分では決められることじゃないんだぜ、この空っぽの腹を満たすために、いつだって目は見開かれる、名前を付けずに印象を刻み込むんだ、名前それ自体は死ぬことはない、だけど現象は、矢継ぎ早に生まれては死体になって降り積もっていくものなんだ。



自由詩 鬱血のアウトサイド Copyright ホロウ・シカエルボク 2021-11-23 18:44:22縦
notebook Home 戻る  過去 未来