記憶の部屋
ふるる

秋の雨が窓を打つ
静かな音の中
君の寝顔を間近で見ていた
冬の厳しさがすぐそこにあり
空気は冷たく
一向に縮まらない距離に悩んでいた
近付けば逃げるのに
留まると残念そうな顔なのは何故
その頃には君の癖は分かっていた
すぐに
人を試す悪い癖

こめかみが痛いと怖い顔もする
しかめつらのまま眠る
ひどく幼く
限りなく優しくなる睫毛
雪のように正しく、やさしくあれと皆が君に言う
(僕だけは言わないように気を付けていた)(君はうつむいてばかりいた)
責任とか義務って何のこと
わたしは何も知らずに産まれたのに
みんなそうだよ
みんなの話なんかしていない
穏やかだった流れを切るように横を向いた君の厳しさ(美しさに)
僕はとても
とても困っていた
別にもう好きじゃないとどうしても言えない
どうして言えないんだろう
難しい顔で果物を選ぶ
そのわりにはすぐに食べないで
傷んでしまってから嫌々食べる

あふれるほど覚えている
泣くと筋肉を使うと言って笑った
喧嘩とか、したくないけどするかもねと言ってはふるふる泣いた
許可を得たのは一度だけだった
それで充分だった

沢山の時と日があの赤銅色の落ち葉たちのように逝った
思い(取り)出すたび少し傷む
君と同じこめかみが痛むようになっていた
君の声
身体の動かしかた
思案する
泣き
笑う声
切ない間 と名がついた
記憶の部屋にはそれが大切に保存されていた
確かに、いや、
多分

それで充分のはずだった
こんなにも時が散りつもりなお
君を救うのは僕でありたいと強く願う
いくつもの楔が打ち込まれて錆びているからか
いいや
君のための特別な部屋があって
そこには君しか
入ることが許されないからだ
すぐに人を試すようなことをして
すぐに後悔してしょんぼりする
子供みたい
子供はでもこんなふうに
根気のいる細かい作業はできないし
昔に作られたものに嫉妬したりもしない
壊したりも
ふいにありがとうと言ったりも
ごめんねはあるかな
ごめんね
赤いコートで雪の中に立つ君は本当に
孤独でかわいそうできれいで
きれいで切なくて
君しか入ることを許されない部屋ばかり
増える




自由詩 記憶の部屋 Copyright ふるる 2021-11-22 16:26:39縦
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