ひなびた温泉宿で芸者の幽霊と興じる真夜中の野球拳あとひと息あとちょっとで
ただのみきや

破産者の口笛

あなたのうなじの足跡
夢からずっとついて来て
真昼に座礁した
摩耗してゆく面差しの焔

古びた空想科学
瞑る金属片の美しさ
叶わないで狂うわたし
鏡の海に爛熟の魔を隠して

破顔――青く迸る秘め事の
呼び戻す術もない燃え滓に
しこたまの酒
月下の蘭を咀嚼するカタツムリ

たましいの脱皮
極々稀な およ
生きて出会えそうもない一行に
残りの全てを上賭けして





とあるキリスト像

愛は天恵
窪みにたまった雨水
やがて乾くもの

悲しみは泉
滾々こんこんと湧いて
涸れることを知らず

世の全てが異を唱えようとも
わたしが喉を潤すのはこの泉
膝をついて ひれ伏して
四つん這いの犬のように

傷口をなめる獣のように
ただただ無心に貪るように
痛みは巡る金の糸銀の糸

愛の配給を待ちわびる長蛇の列
ああ愛の貧民たち 愛の物乞いよ
あきらめよ 悲しめ そして知れ

いつまでも満たされず
いつまでもそうと知られず
奪われ続けている
傾けられて注ぎ出すだけの器

天と地のはざま宙吊りにされた
空虚な器
あの焦がれ中毒死させるほどの
愛の残像を





息白く

熟れた光が残像を焼いた
魂のあらん限りの叫びは
声を持たず 自らを焦し
ただ薄く 薄っぺらく
濡れて つめたい
歩道にはりついた
うつむくあなたの爪先へ





小春日和

ななめ上には絡まった
すずめたちの噂ばなし
そっと産毛を撫ぜる
秋は今日 とっても女神
さて 明日のご機嫌は



             《2021年11月6日》








自由詩 ひなびた温泉宿で芸者の幽霊と興じる真夜中の野球拳あとひと息あとちょっとで Copyright ただのみきや 2021-11-06 23:27:39
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