幽霊 器を持つ虹
木立 悟







蛾と葉が共に地を転がり
匙の足跡をなぞりゆく
雨は止む
音は残る


水が叩き
水が呼ぶ
目の痛みが
もう一度降る


夜の火は覚め
水は起きる
銀河に立つ森
光あびる眉


雨 雨
上から下の水
下から下の水
雨 雨 雨


叫ぶ 当たる
氷の曲線
音は昇る
斜めに 昇る


時間 くいちがい
笑い しずけさ
こどもたち
背の羽と こどもたち


棄てられ
草に埋もれた名
他の名につながり
燃え上がる


旧い水の輪
新しい渦
器の内に分かれたまま
器の杭に咲き乱れる


夜に近づく虹
けものみち
流木と月
降る音は光 降る音は灯


それはかつて弓だった
矢を失くして剣となった
夜を視る鳥の目が
最期の軌跡を覚えている


境いめを行き来するもの
何かを何処かへ置いてきたもの
居ると同時に
居なくなるもの


さかしらに さかしらに
光を下に見ても涙が増すだけ
天はただ天に落ち
夜へ向かう径は不可視にあふれる


虹の波が
霧雨と共に打ち寄せる
川辺の無数の水紋に
無数の灯が乗り 消えてゆく


幽霊は明るく荒んだ場所に立ち
水と鏡に背を向けている
檻の向こうの街
影の足首


水の音は軋む音
器に降る涙の音
紙の下の紙を踏み
近づくものの足音を視る




















自由詩 幽霊 器を持つ虹 Copyright 木立 悟 2021-11-04 21:57:28
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