知らずにもとめて
ただのみきや

習作たちによる野辺送り

鏡の森から匂うもの
一生を天秤にのせて
つり合うだけの一瞬
混じり合い響き合う
ただ一行の葬列のため

 *

軒の影は広く敷かれ
植込みの小菊はしじまに爆ぜる
立ち寄ったホウジャクは口吻も見せず
かすかに傾く
夏へ逃げ出した蝶の影

 *

幼子のやっと結んだ手が
ゆび指す先 こすずめに
桜の落葉あまりに紅く
凪ぎにゆうらり戯れて

 *

雨音に糸を通し
つれづれに綴れ織る
ぬれて燃え立つ秋の緋に
ふれる指先 ふるえる光

 *

おとなしくいとけなく
夢をふくんで眠る子へ
去り往く虫の音にも似た
祈りの色味 ことの葉は
風もないのにはらはらと
土に還らず 
天に上らず

 *

日に日に火の葉のふり落ちる
桜枕にあてもなく
窓に吐息を寄せながら
酒のあいては人ならざるか

 *

銀杏は黄色い小魚の群れ
風の大魚にはたはた怯え
蔦は真っ赤な貝
銀杏の幹に絡んでじっとして

 *

冬眠しない虫たちは永眠もしない
有機物から無機物へ
人のこさえた網の目を
人を捕えて放さないあの網を
苦も無くさらりとすりぬけて

 *

墓石はなにも告げない
黄昏に照り返し
風の輪に落葉をつづる
つめたく固い肌
なぜかふと抱きしめたくなる
かつてのどこかの誰かさん
御影石のあなた





国政選挙

政党は二つ
甘党と辛党

甘党の党首は言う
「今は悪くてもこの先きっと良くなるから
改革変革どんどんやりましょう」

辛党の党首は言う
「今はまだ良いがこの先もっと悪くなる
手堅く慎重に継続していきましょう」

そんな二つのパペットを
右左の手にはめて
国民の集合意識はカニ歩き

「もう何年も後退しっぱなしじゃないか!

「ちがう良く見ろこっちが前だ 目下前進中

「前も見ないでよそ見して
自分でもどこへ向かっているか分からんのだろうが

「いやいや正面をしっかり睨みつつ 
横へ横へと身をかわし続けるって寸法さ





混濁愛

詩は誰かの切り刻んだ心
言葉として遺棄された死体
別の誰かが反魂術を試みる
そうしてどこか自分似の
ゾンビを愛でて悦に入る





すべては

空を斑にうめ尽くす暗い雲の隙間から
かすかに金粉を含んだ冷たい青が沁みて来る
この両眼――縫合されることのない太古の傷へ
あるいはここから生まれたか すべて
見上げるしかない無言の傷口から


                 《2021年10月31日》









自由詩 知らずにもとめて Copyright ただのみきや 2021-10-31 13:12:50
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