香油
46U

とろりと金色の滴りは オリーブや椿や葡萄の種から得たもの
蓮から採った精の封を切り ボウルに張った油におとす

傷を いつくしむこと

じくじくと痛む恨みを切りひらけば
妄念の脂が現れ 穢れた血があふれた
肉は口腔のように濡れてあかるく光り
禊ぎの場をはれやかに彩る苺の菓子のようだった

優しさを染みこませたガーゼでぬぐわれ
祝福の糸で引き絞り閉じられたかつての恨み
粘膜に戻ったようにうつくしい傷痕に
わたしは香油をすり込む

かわいがる と いうこと

恨みをつくり出したのは わたしの弱さであったのに
丹念にそれを撫で 濯ぎ あでやかに祓ってくれた あなた達のやわらかな手

蓮の匂いのする油でなぞるケロイド
あの人をいつくしんだと同じ強さで てのひらで撫でさする
悔いはない むしろわたしは充ちている
けれど 思わないではいられない
もっと何かしてやれなかったか もっと何かあたえてやれなかったか
ひな鳥のように 飢えたまるい口をさしだすあの人のために 
銀の匙をいくつもいくつも用意すべきではなかったのか

すべては終わり 痕だけがここにある

うすもも色のそれに 香油をすり込む
あの人をいつくしんだと同じ強さで てのひらで撫でさする 


自由詩 香油 Copyright 46U 2021-10-30 17:19:43
notebook Home 戻る  過去 未来