ただおそれてる
凍湖(とおこ)

もの言えば唇寒し秋の風
というのは芭蕉の句
けれど、秋の風の吹きやんだことがあっただろうか
なんだかずっと暴風雨のなかにいるようで

誰もが服の下に
生々しく湯気の立つような
肉の腐った臭いのするような
そういう膿んだ箇所を抱え

短を言ったわけでもないのに
カマイタチのように
思わぬ角度でひとを鋭く抉り
それをまたひとはほほえんで隠している

見えないカマイタチがあちこちで発生し
膿が飛び散り
腹から臓物がこぼれ
黙々とそれを拾い集めて
どこもかしこもぴんぴんとすこやかなように
美しく清潔な洋服を着て装うひと、びと

わたしが裂き、そして裂かれた
気づかぬうちに

だれにも謝ることができず、また謝られない
プライドだろうか
いや
ただおそれてる
それがなんであろうと
この口をひらけば
またカマイタチの発生することを


自由詩 ただおそれてる Copyright 凍湖(とおこ) 2021-10-23 07:03:13
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