なんじゃらほい
ただのみきや

胡桃の中身

感覚と本能の間
奇妙な衣装で寸劇を繰り返す二人
台詞を当てるのは
土台無理なのだ
虎はいつだって喰いたい
馬はいつだって逃げたい
やがて波打ち際
血まみれの馬は海へと還る
虎は狂おしい唸りを上げて
砂を引っ掻くのだが
幽霊のように足跡ものこさない
曇った鏡を指で拭う
生クリームと苺で飾った顔
気付かぬ訳もないのだけれど
針が止まっても
時計は坂を転がり続ける
失くしたものは
ちゃんとそこにあって
刺激を待っている
古い虫食いの穴に
今も闇だけが潜んでいる





あきらめという秘蹟

秋に彩られた手稲山のふもと
高台の盛土を支えるコンクリートの壁を
ナメクジが登ってゆく
朝の陽射しにぬれながら
ちょっとエッチに登ってゆく
ゆっくり ゆっくり 
でも以外とせっかちさん
凹凸に身をよじりながら ああ
壁はまだ5メートルもあるのに
ぬるぬるぐいぐいぬるぬるぐいぐい
なにが彼(彼女)を狂わすのかしら
いやーん大蛇に変身したりして
と思いきやその身をグニャッと弧に

――おい! 降りるのか? 
   ここまで書かせといて?

昆虫にはないが
ナメクジには脳がある





その魅力って

秘密には目も鼻も口もない
わけではなく ただ
満面のすまし顔
どこかしら破裂の予感

秘密はもぎ取られた果実
見た目以上に
言外の含みが滴って
だが食せばいやはや味気ない





そんな秋・Ⅰ

色づいて 色を失くして
つめたい吐息による火葬





ひとつのバイオレンス

物語は虎の威を借る狐が羊の皮を被った狼に
ちょっかいを出すことから始まる
そしてクライマックスは鬼の面を被ったいい人が
人の皮を被った鬼畜と対峙すること
「どうやらきさまは虎の尾を踏んだようだ
「おまえこそ眠れる獅子を起こしちまったのさ
「飼い犬に手を噛まれるとはこのことよ
「ゴメンあたし猫をかぶってた
「猿まねしやがって
「このブタ野郎!
「ああっ女王様!
「いいじゃないか人間だのも
「しかたがないね動物だから





記号カースト

「どうしたら詩人になれるでしょうか 」

「なるほど呵責なく自己陶酔に浸るための免状として
世間からも認知されているという記号が欲しいわけですね 
荷物につける荷札みたいなやつを」





そんな秋・Ⅱ

しずくは太陽を灯し
叢にちらばっていた
車の窓をひとつ叩き
行ってしまった雀蜂
路の先に開かれた山
深い空を湛え
樹々の色味の総和に
瞳はつめたい旗のよう
手探りしている
傍にあったはずの何か





雨一粒だけ

風の枕にうつらうつら
七草に
数えられないその草の
あっても呼ばれぬ名



                 《2021年10月16日》














自由詩 なんじゃらほい Copyright ただのみきや 2021-10-16 15:11:16縦
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