暇つぶしによる暇つぶし
帆場蔵人

"華麗に終わるはずもない、そんな末路もしかたない人間だもの"

 靴を揃えて、
 
(やさしい歌よりも悲鳴が好まれるなら
かなしみになけ、朝告げ鳥を抱きしめ
盲いた夜は眼を瞬かせやってくるのだ)

 もう擦り切れ、穴が靴下にあいた、あぁ、穴子食いてえ

(その足にあう靴と踏み締めるための大地
その手にあう水かきと磨かれた銀の鱗が
その頭にあう鶏冠の赤を反射してくれる)

 コンビニで靴下買えばよかった、残金三百一円也

(楽隊の音に合わせて夜の皺に入り込むなら
知れ、識るのだ、叫び、報らねばならない
全てがとても運が悪くて、とても運がいい)

 みっともないか、関係ないか、そうなんだよ

(終わりを迎える少年と少女たちが
すべてをしって、蛹へとかえって
無駄だとしても、しあわせを踊る)

 黙って飛べ、黙って飛べ、だまっ、、、噛っんじゃった

(飛べはしない朝告げ鳥が高台から
  飛翔する、ただひとつの玉の音として
   ほどけた楽隊のリボンが落ちていった)

……痛い、あんま高くなかった、靴下どうしよう、
あ、今日、月曜か。ジャン・プでてるよ、参ったな、

残金301円か……
           
(馬鹿は死んでも治らないらしいからな、ポエム、まだ
書きたりないんです、誰か、救急車呼んでくださいよ)

近所の野良犬が、財布をくわえててたからさ、奪ったの
そしたら血がついてて、中身は301円とレシートの束に
複数の病院の診察券、ラッキーなことないよなぁ、え?
通報?、しないよ。届けて事件性がとか言われてもなー
まぁ、暇つぶしにポエムのネタにしたんだけどさ、結局、
何があったのかはわかんないよね。だいたいはつまらん
ことばかりなんよ。きみ、ちょいと降りてきて話さない?
おじさん、暇でさぁ、遺書書いてたらきみがみえてね
このポエム、酷い出来なんだよ、きみならどう書くかな
年寄り助けると思ってさ、少し時間くれないかなぁ、
意見くれたら好きにしていいよ、ジャン・プ読んでる?
呪術海鮮だっけか、人気なんでしょ?最後に続き読みなよ
おじさんなんか、ハンターの二乗さん、二年待ってたんだぜ
もう、疲れてさぁ、俺の時給が八百三十円から八五〇円に
上がってもハンターの二乗さん、連載再開しないんだから
うんざりだよ、うんざりさ、うんざりするに決まってんだろ
なぁ? おい、きいてんのかよ。あ?時給八五〇円舐めんな
あーァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!こんなの詩、じゃねぇぇ

僕は非常階段から建物のなかに戻ってきた。ちょっと休憩に煙草を吸いに出たのだけれど、変なオッさんの声が路地の暗やみから聴こえてきたからだ。何を言っているのかわからなかったが、バイト先の先輩によるとこのビルで投身自殺があったそうだ。まぁ、路地まで降りなければ害はないらしい。そう言えば、今日はジャン・プの発売日。呪術海鮮は海老マヨ・シャケが熱い、あ!ハンターの二乗さん再開したんだ。僕はジャン・プを路地に投げ込んでみた。だけど、ハンターの二乗さんは翌週、予想通りに休載していたからポエム好きおじさんはまだあの路地で遺書を推敲している。






散文(批評随筆小説等) 暇つぶしによる暇つぶし Copyright 帆場蔵人 2021-10-05 01:11:03
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