最初から灰だった書物へのオマージュ
ただのみきや

巨人の頭蓋の内側で
天井画を描き続けている
孤独なロウソクのゆらめき
舌の閃き いのちの虚飾

わたしたちは互いの羞恥をめくり合った
どの顔も黒焦げのまま燃え残りくすぶり続け
追慕は灰の蝶
不文のまま堕胎した祈りの実存への擬態
――あなたの オマエの 君の 
泡立つ声 白濁した三角州へ
少女の髪より細く注がれたインクの縮れ
と その青い凍結

ふわりとした鴉の事象ではなく時感覚
寸法も重さもない一抹の腐敗へ
捻じれ落ちる眼差し
白い封書 「不在在中」
いがの中で身をよじり
鈴虫の脚をもいで釣り糸を垂らす
裂果を濯ぐきよらかな睦言の
カサコソした残り香
ああ愛はフナムシ愛はゴキブリ
青すぎる血の匂いは遠く星々をも掻き乱す
ナイ宇宙 音楽的死ヨ
とある輪廻の爛れた性器へ感嘆符も疑問符も与えるな
秋桜ゆれる四辻に
わたしの頭を小脇に抱えて立つ
掻っ切るような笛の音よ
嘴も蹄もない愉悦の遁走者よ

生えたばかりの翼の芽は
見知らぬ大勢に愛撫され
ほころぶことのないしこりとなった
季節への耽溺は
笑いながら腐れながら
遥かな空をゆくメダカの群れの乱反射
決して逃れられない掃討戦
静まった渦中で
バラの発狂を値踏みするな
恋人は片言で喰え
蝸牛のようにわたしは瞑り剃刀の上で歌うだろう
ヒマラヤの欠落から降り注ぐ
苦い天使の遺灰
破壊と創造の模倣者として
ほどいては編み直す
青白い記号のもつれから
ねめつけろ 処女の如く
通り魔の澄んだ得物となって



                 《2021年9月19日》









自由詩 最初から灰だった書物へのオマージュ Copyright ただのみきや 2021-09-19 14:03:19
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