夏声
ふるる

そうやっていつも気づかないふりで逃げる
上手く逃げたと思っていても
いつかは対峙する時が来るものだ
ひとり
佇んでいたプールサイドは
夏の光に汚れて立つのがやっとだった
きみが
手のひらを開いて見せたのは
何の合図だったのか
もう終わるのよということかそれとも
始まりの

蝉の声が切断され
夏は一度きりだったと気づいた
特にきみのいた夏などは
失くして初めて気づくもののたぐいだった
宿題を忘れていた
きみからの宿題
この気持ちは何なのかどう説明がつくのか
はっきりさせないといけない
青い正方形に優しく線をひく飛行機雲
よりはっきり

開いた手がだらりと下がり
きみは大きくうなだれた
助けがいるようなら言って欲しい
誰か大人の人
全てを叶えられる人
きみを
救ってくれる人
それは僕ではな  く

裸足がもうつらい季節
靴が合わなくて探し回る
近くの店では取り扱っていない
では遠くは
遠くとはどこだ
遠くに行っても戻ってきてしまう地球は丸いから
いずれは
ここへきっと
僕の(きみの)ところへ

僕はいつも間違えた
後から見れば大抵の事は間違っていて
たまに正解だとしても偶然の産物だった
諦めの悪いやつだと罵られた
失うことは誰でも怖いけれど
前を見るために目はここにあるのだ
理想というよい響きの言葉が手の中にあり
陽に透かすとかすかに光った
いい歳をしてと言われて怯むのだが
いい歳とはどんな歳だろうかと真面目に考える
どんな歳だろうとも同じように生きていて
同じように悲しんでいて
痛みというものがわかっているなら
それでいいのだと確かにきみは言った






自由詩 夏声 Copyright ふるる 2021-09-14 11:32:56
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