秘名 降りつもる色
木立 悟






空を哭き仰ぐ朝があり
磨く価値もない宝がある
砕象 砕象
底に敷いたもののかたち 


午睡の白は塩の白
窓にたたずむひとりの白
何ものにも染まらぬ花嫁の白
帰るところを忘れた白


虹を横切る雷光が
空に幾つも十字架を描き
光の文字の集まりが
重なりすぎて暗く遠のく


家より大きな土嚢の向こう
鴉の羽毛が指す方へ
家より大きな歩幅で過ぎる
空飛ぶ歩幅で歩きゆく


かたちも色も表情も
次々に変わる幽霊が
名を失くしながら捨てながら
時に降る名を浴びながら飛ぶ


風が 病が
鉄の滑車を廻している
空に貼り付いた無数の羽が
星と同じ方へ消えゆく


錆びた水の夜明け
花々 ひとつの花
水しぼる光
鏡に落ちるひとつの火


なかばひきちぎりながら
午後を次へとめくるとき
途切れ途切れに来た夜を
白い雲の群れが覆うとき


涙と薬が混じって流れ
耳に 口に 首に流れ
降る色を抄う手は泣いて
滴に逆さに映る陽を見る


















自由詩 秘名 降りつもる色 Copyright 木立 悟 2021-09-14 10:59:44縦
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