夏の曲がり角
石田とわ





    ちいさな蕎麦屋の片隅で
    夏の忘れ物が色褪せていく
    ときには本を片手に行儀悪く
    あるいは昼間から日本酒を肴に
    天ざるふたつを頼みながら
    買い物帰りのひとときを
    過ごした夏の曲がり角
    頁をめくる短い爪の細い指先や
    線の細いその横顔

    無口な店主がいる
    しずかな蕎麦屋

    あの蕎麦屋に忘れてきたものは
    もう思いだせないが
    その指先と横顔は
    今も頁をめくり続けている






自由詩 夏の曲がり角 Copyright 石田とわ 2021-08-21 00:23:04
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