跋扈ちゃん
ただのみきや

夕涼み

薄暗がりがそっと首を絞め
あなたは鬼灯を見た
決して強くはない抱擁で
皮膚一枚を越えられず
互いの頬に帰依するように
自分の愛と思える部位を自分で弄って
記憶に補正された鬼灯は
黄泉路を照らす灯か
悲哀の詰まった優しさが
はち切れる ひんやりと
腿から上へ這うもの






白紙のヴィーナス

時代の船から突き落とされて
波にさんざん弄ばれて
打ち上げられたマネキン
泡立つ嘲笑に尚もしゃぶられて

どこから来たか国はどこか
詮のないこと もはや
そこらの貝殻と同じく記号なのだ
かもめが側に舞い降りる

わたしは持ち帰って
シャワーで洗ってやる
情欲からか
ヴィーナスと名付けてみる

本物はつくりものの中にしかない
不純物を除き濃縮されたもの
現世の幽霊は
劇の舞台で形象を得た

タトゥーのないヴィーナスよ
おまえにルビを打とう
ふるえる片言の心音
すべての夢は孤児だ

訪れる扉ヴィーナスよ
わたしはおまえに身投げする
一個の孵らないウミガメの卵
輪廻する恋情の的のない嵐






ワイルドブルーベリー

不埒な錯覚だ
スルスルっと狼する目走りで太陽の氷嚢を噛み潰す
初恋の血の味 詳らかな罪の淫らな活殺者
鎖鎌みたいにヒュンヒュン振り回される
残像的死夫人の美しき融解よ
硬直した白鷺シロップとホロスコープ的黒兎ギャロップで
摩耗して行く天然の回転ドアー おれのどアタマ
すっかり慣れた手乗りの絶叫すら
博学な爆発物のコピーに過ぎないじゃないか
甘いせせらぎのモーニングを着た鍼灸ジジイの
いかめしい近影がおまえの額から透けて見える
いい年こいた制服主義者の丑の糞参りを待ち伏せて
大きな葛籠からかしましく
生き胆食いの占女が呼ばわるっているじゃないか
もんどりうって逃げ出すジャッカルよ
麻雀牌の首飾りを落としたまんま行っちまえ
剃毛恥部へリズミカルにローションを塗って
明けても暮れても座して自慰に浸る案珍の群よ
地母神ヘクタールの地獄まで通じる貝塚の前で
無言のヘクトパスカルに球体化する小魚の群れ
赤ん坊言葉を人質に盗った似非バンドマン共よ
聞えよがしの如雨露で寂滅を注いで誰の下着を汚す気だ
百連発も奮発した髭なしマシュマロの祝祷とザーメン
ジョーダンは吉本隆明よ!(吉増剛造でもいいや)
さあ帆をかけろ
時代と袂を分かて
意識の裏っ側でサンバに乗って難破しろ
防災袋からキューピー人形と希望の缶詰を取り出して
へそのピンを抜いたら三つ数えて投げるんだ
今日もまたアタマに浮き輪をつけて飛び降りるのか?
脱出と転生の常習犯 
透けたクラゲどもよ
おれはどんな男根にもまたがったりはしない
カウボーイが買うガールにもまたがったりはしない
トレーラー1000台分のインポテンツを土星まで運ぶ
インポッシブルなミションに没頭する孤高のコオロギ
スパイシーなミイラの伊達男だ
時を遡るジャムを塗った甲羅をメレンゲする
そんなつもりはサルサもないキューバラムだ
科学雑誌より乾燥お化けをパイプで吹かすのを好む
おれは万事において門外漢 思想に痴漢する者
呪いの伝統芸で崖っぷちへと煽動する
ハーメルンの法螺吹き男
ハイヒールを履いた猫耳のピクピクだ
ああ縞縞シンデレラに嫉妬して落下する皺皺シャンデリア
姫様の下着の空白が記号で埋め尽くされる時
おれの墓が興奮して大口でゲラゲラ笑い出した
逆巻く時間の中で膨らんだ光の膀胱からあふれ出す
退廃的体液は夜の街を宇宙船へと変える魔法の注射
おれの足が星空を蹴る
  地球が落ちて来る
     心平ちゃんみたい
        でかくて黒いドット――




                    《2021年8月14日》







自由詩 跋扈ちゃん Copyright ただのみきや 2021-08-14 15:51:26
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