放浪者と廻者
帆場蔵人
Ⅰ
この夜にはふたつの月がある 手、埋葬、される
太陽が失われたときの名残り 耳に、注がれる、火
Ⅱ
電車が駅に入ります ※漂泊しすぎにご注意ください
ほら、無数の骨組み、クジラ、ヒト、アドバルーン……
ひやしあめ、ひやしちゅうか、かなしそうなetc.etc.
鉄コンキンクリィィと、と と と、熱さ で とけ た
うなぎもほろび、花鳥風月もほろび、ヴクの歌に生きるだけ
故郷は遠きにありておもうもの、また、かなしくうたうもの
汀、 渚とはなにか
汀、汀、 蟹は砂のなかから
汀、 化石さへみつからない
去りし海を呼べ砂に傾いた灯台の群れよ
廻者(ヴク)は砂と空へ歌を捧げる、海をしらぬひとびと
無数の砂丘は墓であった、諦めのうえに降る砂漠の海
骨組まれていたものが、額縁からはみだしてはぐれ
回転する鳥たちを詠みあげヴクは琴の
弦に変えていく捻られひきしまる歌声
継がれる火と遠くに在った火の名残り
鎮まれと、痛みも悲しみも怒りも、やがて風化する
立てかけられた
梯子どこにもとどかず
人魚はのぼる足もない
汀、汀、汀、去りし海を呼べ砂に傾いた灯台の群れよ
翆、と呼ばれるその楽器は、翠ともいうらしいのだ
奏者の性別によって変わるのだという、かわせみ、が
どんなものであったのかは太陽とともに失われた
Ⅲ
電車は来なかった、また誰かが身を投げたのだ
俺はヴクにさそわれるままにしらけた六脚馬にのり
傾いた灯台の狭間をぬけていく、砂がまた渇いた
ヴクの歌はわからない、俺はそれを知りたい
流砂はそこにたどりつくのか、わからない、砂をかきわける
六脚馬のあゆみ、鳥はなぜ回転をはじめたのか、海はどこへ
うしなわれた、故郷への道は砂に埋もれて、行き方知れず
(なぁ、 おしえてくれ、 いや、 いいんだ)
どこへ……
どこへ どこへ…
どこへ……
線路はそこにある、朝はない、ないとあるの蛇たち
風砂に還ろうとする身体を編み直してくれる、ヴク
とりつくしまをさがしていた、すべてはそこにある
自由詩
放浪者と廻者
Copyright
帆場蔵人
2021-08-06 12:55:28
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