南へ進んで愛まで歩いて
かんな

北の先まで歩いて
呪いを解くにはことばを
刻まないといけないらしい
包丁を研ぐには暴言が必要で
持つ手には温もりが必要で
橋を渡るときに気づいたけれど
川は流れていないことに
歩くのは怖い
怖いというのは出会いたくない
と言う私がいるから
洞穴にも崖にも鳥の巣にも
靴ずれにも指の軋みにも
悲しみは住処を作る
食べ物に正しさを練り込んだような
昨日の夕食を思い出す
あの家には誰かが居ただろう
私がいて
私という誰かがいる
君は本の中にいて
君はスプーンの曲った所にいる
南へ進んで
北の先まで歩いて
呪いを解くにはことばを
刻まないといけないらしい
名前を刻んで
そして私を呼んで


自由詩 南へ進んで愛まで歩いて Copyright かんな 2021-07-28 23:59:10
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