幸福な踊り手
塔野夏子

世界は終わってしまっていた
ただ 世界が終わってしまったことに
気づかないひとりが
円形舞台のうえで
踊っていた
世界は終わってしまっているので
そこに音楽はないのだが
音楽があるかのように
美しくみごとに
踊りつづけていた
きっとその身体に
音楽が満ちているのだろう
観客も喝采もない中で
世界が終わってしまったことに
気づかないひとりは
まるで自らが
世界そのものであるかのように
激しく 繊細に 鋭く 豊かに
踊りつづけた




自由詩 幸福な踊り手 Copyright 塔野夏子 2021-07-23 10:55:42
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