ひょうはくされる切符
帆場蔵人

(白壁につたう蔦を歌うから壊れたカメラうつらない右眼)

朝が来る鉄道路線よ、そろそろ別れのあいさつをしようか
町を囲む白壁を跨いで夜をさすらう巨人たちは去っていった
やがて町は空梅雨の笑い声に呑まれて砂漠と化して誰もが

心地よくねむるなかで 温かな砂の重みに  嘔吐した

砂になれずひかれたものたちの血でできた川へと
白壁の蔦を剥がしながら流れて行きたかったのだ
落書き、悪戯書き、剥落、とても流麗な文字だった

『酔いが覚めたらきみはアンドロイドになれる』

誰かに譲ってばかりで右眼さへ
なくなってしまった、俺は壊れた
カメラと一体化して、蔦をつたい歩く
蔦はまだ血管であった名残りを残していて
砂になろうとしている口や白壁から覗く舌が

ゆるされないことばかりつくしてひにんのはてに

はじまらないひとよひとよ ひとよにひとみごろし
うめたのはじぶのひみつでなく たにんのひみつ はなどろぼう
はかあらし はかあらまし あらしはたいじょうほうしん
しんしんとしんけいつうわできますから しらないばかり
するされないことばかりつくしてひにんのはてに

はじまらないひとよひとりひとよにひとにごらし……

いちわの百舌がしんでいるこいつはなにを囀ったのか
俺の舌は蔦たちの遺言をよみとろうとしてこんがらがる
落とした右眼がみているものが違う世界を示唆していた
虚実を地層と壁にしていくのはことわりなのは周知の
通り、ダイヤ通りなら始発列車がもう来るはずなのだ
俺はそれを写してこの虚実の層を厚く、壁を鮮やかに
虚飾する、自覚的に飾りつける、旅を続けるためには
いくばくかのかねがひつようだからかだ、その筈なのだ

呆けた壁、呆けた砂、そんなものに足を取られる

流 砂 のあ わ いをぬけ て いく列車の繰 り返す
ダ イヤ を描き続け る職人がま たひと り身を投げた
あ  はれあは れわれ るやは  れ るやんごと な

夜をさすらう巨人たちのあしあとすらきえさり
呆けた砂に足を取られる、白壁の蔦がぶちりと
血を散らして、涙よ、砂にのまれてきえるのか

行く方知れずをたずねてはひとり壁に頭おしつける
いくばくかのかねをにぎりしめさまよいまようばかり
俺の部屋、しろすぎる光量に酔いながら、まだひとだ

壊れたカメラ右眼が渦巻きながら朝を俺は嘔吐した


自由詩 ひょうはくされる切符 Copyright 帆場蔵人 2021-07-20 18:00:19
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