原と道(すぎゆくひと)
木立 悟




海の底の火のような
風を花を歩むとき
わたしの横をすぎるひとが
空を指しては歌いはじめる


異なる時間が沈む草地に
生まれておいで 生まれておいでと
解けのこる雪に呼びかけるひと
ただ見つめることで呼びかけるひと


ひとかけら ひとかけらを
鳥は持ち去る
少し離れたところに再び
同じ季節の巣が作られる
土のざらつき
光のひとつぶ
高い高い塔の影
変わりつづけるものの上を
鳥は幾度も行き来する


歌はとどき
草の原の一日
おだやかな隙間を流れ
曇を見つめるひとの瞳
手のひらのなかの土と火と影
わたしの拙いふところを揺らす


空をゆくこがねに照り返し
午後はあたたかく分かれゆく
ひとつを受けとり
ひとつをのがし
わずかな水紋のからだを見つめ
風になびく原に招かれ
川は緑にそよいでいる


水の向こうに結ばれる
音のかけらを鳥たちは見る
声に小さな水を持つひと
歌と曇に染まる指で
川のかたちを描きながら
ひとつの花のはじまりとして
原のほうへとすぎてゆくとき
道のほうへとすぎるわたしの
ひとつの背中に羽を吹きかけ
ひとつの歌をまたたかせてゆく








自由詩 原と道(すぎゆくひと) Copyright 木立 悟 2005-04-25 16:37:42
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