午後 山は飛び ひとりを歩み
木立 悟







硝子が
黒く空をゆく
映るのは音
変わりゆく音


真昼の霊が幾つかの影を
円く短く
花のかたちに置いてゆく
笑う背中に乗せてゆく


手足の指が
痺れるほど何も無い地
地 水の地
地へつづく地


暗い明るさ
昏さ 昏さ 
伏した目の高さ
滴の先


径に降る羽
しんしんと呼ぶ声
水は午後
水は土


数式の樹に咲く花が
煉瓦の径に散り急ぐ
手風琴とさざ波の
はざまの音たち


階段の何段めかで
花は待っている
踊り場の窓はむらさき
渇いた鳥の声もする


まばたきの度に傷つく水晶
白く白く濁る視界
羽に満ちた青空は
ずっと午後のままでいる


雨雪が緑の日
角を曲がる小さな舟
多足の影が空に映り
水を歩むまばらな陽


ふたつめの窓を透り抜け
風は少しだけ色を見せる
夜の上の夜の径
歩きつづける二重の影


目をあけていられないほど
まぶしい雨の朝とささやき
かつてぽつりと生まれたものが
歩み出すまでの長い長い時間


腰を脇を腕を手首を
何度も何度も
すぎては砕ける花を見る
抱いては砕ける花を見る


午後の街に消える舟
飛ぶ山の影の下
ちらばる花を拾い集める
金と緑の手に触れてゆく



















自由詩 午後 山は飛び ひとりを歩み Copyright 木立 悟 2021-06-23 08:41:18縦
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